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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第9回 しんくみ大賞青少年部門
ぼくにも出来る事を
田中 蒼羽(岡山県)
「大変じゃ。うら山がくずれた。助けて。」七月六日の夜九時、テレビを見ていた時だ。おばあちゃんが玄関からさけんだ。お父さんお母さんとお姉ちゃんとぼくは、あわてて外に出た。この日は朝からずっと大雨が降っていた。見ると、母屋のうしろで土砂くずれがおきていて、そこから水がすごい勢いで流れて、家を打ちつけていた。家がこわれると思って心配になった。お父さんは、大雨の中シャベルで土砂をほりながら、どこかに電話をしていた。ぼくはお母さんに言われて、お姉ちゃんと三人でひなんの用意をした。宝物のサッカーのメダル、ユニフォームやスパイク、水や食料をリュックにつめた。重くてパンパンになった。家の一階のものを、できるだけ二階に持って上がった。ワールドカップのウルグアイ対フランスが始まったちょうどその時、二度目の土砂くずれがおきた。「蒼羽は来るな。安心してワールドカップ見ようれ。」お父さんに言われて、ぼくだけ家にいた。今度はお母さんもお姉ちゃんも外に出ていって帰ってこない。大好きなサッカーなのに、見る気になれない。外に出た。お父さんが電話で助けを呼んだ消防団の仲間がたくさん来てくれて、土のうをつんだりしてくれていた。よごれることやめんどくさいことが大きらいなお姉ちゃんが、ずぶぬれでどろまみれになりながら、大きなシャベルで土をほっていた。ぼくに気付いたお母さんがこっちに来た。「大丈夫。みんなが助けてくれるよ。心配で家におれんのんじゃろ。ここにおって、みんなをライトで照らしてあげて。」ぼくは車庫の下で一生けん命照らした。こわかったけど、何もせずに家にいるのはいやだった。ぼくも手伝いをしたかった。
家がなんとか落ちついて、ぼくたちはお父さん以外でひなん所に向かった。と中、土砂でうまった道で、車が動かなくなってしまった。消防活動に行ったお父さんに電話をしたけど、すぐに行けないと言われた。車を置いて逃げようとしたけど、土砂にうまって足が動かせない。本当にこわかった。その時だった。お父さんの仲間が大勢で助けに来てくれた。うれしくてホッとした。なんとか無事ひなん所に着いた。一晩をひなん所ですごした。ぼくがお父さんに会えたのは、次の日の夕方だった。寝ずにずっと地域の人々の手助けをしていたと聞いた。本当にすごいと思った。
あの日から一ヶ月たった今も、お父さんは消防団員として、休みの日にはひ害のあった所へボランティアに行っている。仕事とボランティアで、毎日休みなしだ。体が心配で、休んでほしいと言うと、「困っとる人を助けんといけん。助けてもらったぶんも、恩返しせんといけん。」と言った。ぼくは、お父さんのような大人になりたい。はっとした。今のぼくでもできることがある。助けてもらった感謝の気持ちを大切に、ぼくにでもできる手助けから始めようと思う。
(原文のとおり掲載しております。)