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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第9回 藤野涼子賞一般部門
二人でゴール
上之段 美保(香川県)
『もう少しだー』『がんばれー』
ある年の中学校の体育祭、大歓声の中、私の目前にあったのは、友人の乗った車椅子を押しながら走る息子の姿だった。
ある日、私が私用で学校に行った時、偶然にも息子と友人のある光景を目にした。『今から音楽教室に移動だから、僕が車椅子押すよ。』と声をかける息子。『ありがとう。重いのにごめん。階段あるけどどうする?みんな先に行ったよ。』と申し訳なさそうに友人が言う。『階段は僕が背負うから大丈夫。車椅子は後から持っていくよ。』と息子。そして、息子が友人を背負って階段を上っていく姿を私はじっと見守っていた。
翌日、息子はいつもより早く起きてきた。『どうしたの。もう学校に行くの?』と私が尋ねると、『あいつのことが気になるから。』と言って家を出た。私は、前日見た学校での光景を思い出し胸が熱くなった。この日から1ヶ月の間、息子は早く家を出る日が続いた。
体育祭当日、友人は車椅子に乗ったまま、他の生徒と徒競走のスタートラインにいた。『位置について、用意!ピーッ!』先生の笛の合図と共にみんな一斉に走り出したが、友人は勢いよく走り過ぎたせいか途中でバランスを崩し、転倒してしまった。車輪がグルグル空回りしている中、友人の両手は遠くからでもわかるくらい真っ赤な血に染まっていた。そこに真っ先に駆け寄ったのは息子だった。友人を肩にかついで抱きかかえ、友人に声をかけながら倒れた車椅子を起こして再びそこに乗せた。友人は息子に勇気づけられ再び走り出した。しかし、ゴールまであと少しという所で手の痛みに耐えきれなくなったのか力尽き止まってしまった。
その時だった。それまで横で並んで一緒に走っていた息子がそっと友人の背中に回った。そしてそのまま車椅子を押しゴールに向かって走り始めたのだった。『よく頑張ったな。後は僕に任せろ。』と言う息子の声がした気がした。
そして、拍手と声援に包まれ、二人が駆け抜けたのは、『友情』と言う名の輝かしいゴールだった。
その時二人は『絆』と言うかけがえのないメダルを手にしていた。
(原文のとおり掲載しております。)