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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第9回 入選一般部門

ロンボク島のサンスルさん

新井 美貴子(長野県)

「小さな助け合い」と聞くと、ある思い出がすぐに浮かんできます。

それは、2017年12月、深夜のインドネシアのジャカルタ空港でのひとときです。私は、環境問題に関するツアーに参加するため、ロンボク島行きの飛行機を待っていました。しかし、搭乗予定時間を過ぎても飛行機が来る気配がありません。待合室の間違い、乗り遅れ、遅延...。アナウンスは全てインドネシア語で、不安な思いが募るばかり。さて、どうしたものか...。しかし、長時間のフライトを経た疲れと眠気で頭は回りません。そんなとき、日本語で話しかけてくるインドネシア人がいました。

「あなた日本人?飛行機は二時間遅れてるよ」

彼の名前はサンスルさん。パッと明るくチャーミングな彼は、不安な心を一瞬で和ませてくれました。

「飛行機が来たら教えるね」

それからの二時間は、サンスルさんと話をして過ごすことにしました。彼は、ロンボク島出身で、電子部品を製造する技能実習生として、以前日本に住んでいたと言いました。

「それで、日本のどこに住んでたの?」

「...長野だよ!」

聞いて、驚きました。それは、私の故郷だったのです。ジャカルタの空港で、「長野」を聞くとは!

「長野で初めて雪を見たよ」「高遠の桜はきれいだったね」

そんな楽しい会話中にも、疲れた表情を見せる私に、サンスルさんは「元気?大丈夫?」と何度も聞きました。それから、「おなかがすいてるでしょう」と言って、売店でパンを買ってくれました。その細やかな気遣いに「どうしてそんなに親切なの」と思わず尋ねてしまいました。すると、「長野の人が優しかったから」と一言。さらりとした発言だったけれど、そのとき、私の心にはある光景が鮮やかに浮かんでいました。それは「小さな助け合い」が世界中をぐるぐる駆け巡っていく光景です。"ああ、私の知らない長野県の誰かが、以前サンスルさんにした親切が、今ジャカルタで、私に返ってきている!"

その後、遅延した飛行機が無事やってきました。私は無事にロンボク島に着き、豊かな思い出をたっぷり作りました。日本に戻ってからは、サンスルさんを思い出して、以前より身近な人に親切にするようになりました。

...物語はここで終われば良かったのです。

2018年8月5日。何気なくニュースを見ると、ロンボク島が映っていました。

「ロンボク島でマグニチュード6.9の地震が発生しました」

すぐにサンスルさんに連絡しました。しかし、返事がきません。2週間以上経って、ようやく連絡がつきました。

"Mikiko san.. watashino kazoku ha 4 nin shinimashita. Zutto gaman shimasita.."

3月に結婚したばかりで、長野が好きで、ジャカルタで励まし続けてくれた、心優しいサンスルさん。その笑顔がもう一度見たい。それで、なにか大きなことはできない私ですが、より多くの人がロンボク島に心を寄せ、世界を駆け巡る小さな助け合いを始めるきっかけとなるように祈りを込めて、この文章を書きました。

(原文のとおり掲載しております。)

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