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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第9回 入選一般部門
素晴らしい後輩に会えて嬉しかったよ
玉井 一郎(香川県)
五年ほど前の、多分春休みだったと思う。
私は男の孫二人を連れて、近くの河口へ潮干狩りに出掛けた。三歳の孫は私が手を引き、岸辺近くで潮干狩りの真似事をしていたが、五歳の孫は子供用のバケツと熊手を持って一寸離れたところまで勇んで掘りに行った。
最初は嬉しそうに
「爺ちゃん、二つ取ったよ、三つ取ったよ」
などと弾んだ声で得意そうに報告していたが、突然、「ワーン」と泣き出したのである。
見るとぬかるみに長靴がめり込んで脱げなくなり、尻もちをついていた。私は慌てて
「爺ちゃんがすぐ行くよッ」
と言ったものの三歳の孫も一寸離れている。
こちらも目を離すことは出来ない。どうしょうかと、もたついていると、孫の近くで掘っていた小学生らしい二人の男の子供さんが、
「おじちゃん、僕らが助けるよ」
と言って、転んでいる孫を抱き起こし、長靴を引き抜き、バケツも拾って、泥まみれになりながら連れて来てくれたのである。
本当に助かった。私が
「どうもありがとうございました。助かりました」
とお礼を言っていると孫がまた泣き出した。
「僕が取った貝が無い」
と、言うのである。すると一人の男の子が、
「泣かないでいいよ。お兄ちゃんのをあげる」
と、掘っていたところまで引き返し、自分が堀った貝を両手一杯持って来てくれた。
孫は現金なもので、それを見るとすぐに泣き止みニコニコ顔で嬉しそうに笑って、
「ありがとう」と、お礼を言っている。
私は何かお礼をと思ったが特に何もない。仕方がないので、持って来ていた、ジュースの小さなペットボトルと、袋入りのお菓子を渡そうとしたが、彼らはそれはお孫さんのものです、と遠慮して受け取らない。
話を聞くと近くの小学校の5年生とのこと。
「爺ちゃんは、その小学校を七十年前に卒業したんだよ」
と打ち明け、
「これは、先輩の命令だ。絶対受け取ってくださいな」
と、冗談めいて言うと、
「先輩の言うことには反対は出来ないね」
と、はにかむように笑って受け取ってくれた。本当に素直で、優しい後輩に会えて良かった。助けられた。そして何より人間的に優しく素晴らしい後輩が育っているのを知ってとても嬉しかった。帰って早速、学校にお礼の電話を入れた。電話に出られた日直の先生も、
「校長先生に報告し、次の全校集会でお話します。子供達の励みにもなりますので」
と、喜んでくださった。
後輩よ、あの時はどうもありがとう。
本当に助かりました。孫たちも君たちみたいな優しい人間に育てますよ。
お約束します。
(原文のとおり掲載しております。)