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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第9回 優秀賞青少年部門
言葉がくれた心の支え
服部 アキ(岐阜県)
「あのお家の子?大丈夫だからこっちへおいで。」
私の目の前で私の隣の家が燃えていました。荷物を運び出すお母さんに言われて近くのお店の駐車場に行き、私はひとりです。消防車が何台も来て、私の周りに火事を見にきた人達が大勢集まってきました。黒い煙と真っ赤な火と燃えるにおいが、怖くて怖くて私は泣いてしまいました。
その時、声をかけられました。知らない女の人でした。泣いている私の周りにはたくさん人がいたけれど、声をかけてくれたのは、その人ひとりだけでした。
涙はとまりません。だけどその人の声が優しくて、心に響いて、その時の言葉は忘れられません。通りすがりの知らない人のたった一言が、その時の私には、光のようでした。
女の人は私をお店の中に連れていき、訳を話してどこかへ行ってしまいました。
お店の人は、
「大丈夫だからね。お母さんももうすぐ来てくれるからね。」
と言って私を椅子に座らせ、お菓子をくれました。私はまだ泣いていてお菓子を食べる気などなかったけれど、もらったお菓子を、ぎゅっと握りしめました。もらったものはお菓子だけど、もっと大切な、心があたたかくなるようなものをもらった気持ちでした。
涙もふかずに泣き続けていたら、お母さんがきました。お母さんは、
「お家が燃えていくのを見たくない。」
と言い、お店の中でふたりで泣いていたら、友達のお母さんが、お茶やおしぼりを持って走ってきました。お母さんの横に立って肩をなでていました。私にも「大丈夫だからね。」と言い続けています。不思議なことに、だんだん気持ちが静かになっていきました。何が大丈夫か分からないけれど、その言葉で涙がとまっていきました。
お父さんが来て、
「家に火がうつらないように、消防の人が一生懸命水をかけてくれた。多分大丈夫だよ。」
と言い、私はやっと涙がとまりました。
第一発見者だった私はその後、消防の人にいろいろ聞かれました。思い出しながら話すと、火やにおいがよみがえってきて怖くなりました。でも、泣いている私に優しくしてくれた人たちの言葉もよみがえってきます。
きっとその言葉には、相手を思う思いやりという魔法がかかっていたように思います。本気で心配してかけてくれた言葉や優しさには、相手を強くさせる勇気も入っていると思います。だから私は、この経験を越えられたのだと思います。
たまたま通りかかった人から私は助けてもらいました。今度は私が誰かを助けるつもりで、通りがかりの小さな助け合いを意識していきたいと思います。
(原文のとおり掲載しております。)