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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第9回 入選青少年部門
親切心を未来へ
池田 麻里子(東京都)
「ぜったい、ぜったい、またあそびにくるからね!」
そう宣言した小学3年生の頃の私は、祖父母と田舎の駅で別れただけで、心が寂しさでいっぱいだった。ぽっかりと穴が空いた心。とめどなく溢れ出る涙。しょっぱくて苦い味がした。
帰省するたび、色々なところに連れて行ってもらった私は、かなりのおばあちゃん子だった。そのうえ泣き虫で、食いしん坊で、意地っ張り。祖父母も手を焼いたと思う。帰りの電車の中でも涙が止まらず、ずっとめそめそしていた。
そんなとき、電車のゴォーという騒音の中にパタンという小さな物音が聞こえた。向かいの座席に座る女性の財布が落ちる音だった。女性は居眠りしていて、財布を落としたことに気づかない。どうしようと思っていると、父が「拾ってあげようよ」と言ったので、私が拾ってその女性に渡すことにした。
「財布落ちていましたよ」と声をかけた瞬間、女性は起きた。きっと「財布」という大切なものに反応したのだろう。すると、「ありがとうございます。助かりました。」と言って持っていた紙袋の中をごそごそし始める。私は何をしているのかと不思議に思いながらも、自分の座席に戻ろうとした。そのとき、「財布を拾ってくれたお礼。」と言って私に大好きなクッキーをくれた。それは地域限定の特別な味で、東京では食べられるものではない。
もらった瞬間、私は満面の笑顔になった。めそめそしていたのが嘘のように嬉しかった。クッキーを一口一口小さく小さくかじりながら、味わって食べた。今までに食べたクッキーの中で一番おいしいと感じた。
私は今まで知らなかった。人に親切にする行いは、自分も相手も嬉しいし、幸せな気持ちになれるということを。田舎暮らしの祖父母からいつも人に親切にするように言われてきたし、人に親切にすることは常に心がけてきたつもりだ。でも、まさかそれが自分自身に返ってくるなんて思いもよらなかった。
しかし、考えてみると妙に納得できる。日本には古くから「情けは人のためならず」ということわざがある。人に親切にすると良い報い見返りが自分に返ってくるという意味だ。それが今にもいきて伝わっているのだから、世代を超えて大切なことであるはずだ。
「情けは人のためならず」これは、人に親切にしなさいという教えだ。だが、他人に対する優しさや思いやりに欠ける人が増えていると私は感じる。
曾祖父母から祖父母、両親そして、私へと伝わってきた「人に親切にする」という教えを次は私が、私の未来へと繋げていかなければならない。
(原文のとおり掲載しております。)