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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第10回 藤野涼子賞一般部門
誰かに頼ってもいいんだ
今北 亜希子(北海道)
-そうそう、こんな感じだ-
ある朝、私は不意の気持ち悪さで目が覚めた。この気持ち悪さはかつて経験したことがあった。それはちょうど五年前の同じ季節。当時私は息子を妊娠した。気持ち悪さの正体はつわりだった。それまでに経験したことのない気分の悪さ。とにかく一日中しんどくて世の中すべての臭いに敏感になり、ひたすらトイレに駆け込むような日々を送った。仕事どころではなくなり、二カ月休職した。
-あぁ、またあの辛い日々が始まるのか-
私は、トイレで妊娠検査薬の陽性反応をみつめながら思った。喜びの気持ちが、もちろん一番だった。しかし、次にやってきた黒い気持ちは、つわりに対する恐怖。それだった。季節は五年前とほぼ同じ。当時と違うのは、近くに両親など頼れる人がいないこと。三年前に長年生まれ育ったまちから、夫の転勤で知り合いなど一人もいない、北国へやってきた。息子が幼稚園に通うようになって多少のママ友?友人?と呼べるような人はできた。それでも、家族以外に頼って生きることは許されない。そう思いながら過ごしてきた三年間だった。そんな中での妊娠。マタニティブルーと五年前のように襲いかかるつわりの影によってか、私の気持ちはどんどん弱くなっていた。
そんなある日、息子の幼稚園の集まりがあったのだが私はつわりにより、欠席した。多少話をするママ友には妊娠のこと、つわりのことを話し始めた頃だった。その集まりがあった週末、「体調どう?子どもと旦那さんの分の食事、少しだけど持ってきたからたしにしてね」と近所に住むママ友が訪ねてきてくれた。そして、また別の日には「子ども、幼稚園の後預かるから、ゆっくり寝てな」と別のママ友が遊びたい盛りの息子を連れ出してくれた。その他にも、「困ったことがあったら何でも言ってね」「買い物辛かったらかわりにするから」「息子くんのお迎え、かわりに行くよ」と次々に、その集まりに参加していたいろんな人が優しさの申し出をしてくれた。私はただありがたく、そして感動した。家族以外に頼ってはいけない。と自分の中で決めていたけれど、私の周りにはこんなにも親切に助けてくれる友人が大勢いたのだ。感謝しかなく、そして、その手を差しのべてくれる人たちに頼らないと、生活はまわらない状況だった。私は一人一人の友人の親切に、素直に頼ることにした。
つわりのピークを抜け出した今、友人たちは、「いつでもうちに子どもを預けていいから」「出産後も大変だし、困ったときはなんでも言って」と早速、次の優しさを見せてくれている。今の私には感謝することしかできないけれど、友人たちが困ったときは、私も優しさの申し出ができるような人間でありたい、そうなろう。と心に誓っている。