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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第10回 入選一般部門
はちどり横断歩道橋
菊池 さとよし(青森県)
行政からの依頼で、「通学事故防止委員会」に所属したことがある。
子供達の登下校時における交通事故について調べたが、横断歩道橋での事故の多さに驚かされた。横断歩道橋と言えば歩行者の交通事故を防ぐために架設されたはず。それなのに歩道橋での事故が多いとは、どういう事か?
警察の担当課等で調べたところ、雪国特有の理由が背景にあった。
本州最北端に位置する当地は、12月から3月の降雪期は毎朝雪片付けに追われる。 当然ながら横断歩道橋にも雪が山の様に積もり、歩道橋を利用する人達は、雪を踏み固めながら歩道橋を渡ることになる。
また仮に雪の降らなかった朝でも、夜間の寒冷で歩道橋の階段がカチカチに凍り、一歩間違えば階段の下まで滑り落ちる危険な状況に晒されます。
そんな中、歩道橋が架設されて以来、一度も事故のない横断歩道橋があった。その不思議を知りたくて現地を訪ねた。
調べたところ歩道橋周辺に住む10数名の住民達が、当番札を渡して自発的に横断歩道橋の管理をしていた。雪のない時季は週に一度の清掃活動を、そして冬期間は毎朝当番が歩道橋の除雪活動をしているとのこと。
10数名の中で通学生を抱えているのはほんの1名で、他の皆さんには通学児童がいる訳でもない。それなのに15年余にわたって歩道橋の管理に関わっているのには訳があると言う。
ここの横断歩道橋も他の歩道橋と同様に、架設当時は転倒や滑落事故が珍しくなかったという。歩道橋の直ぐそばに住むKさんというお婆さんが、子供達が転げ落ちる様子に胸を痛め、歩道橋の雪片付けを始めたのが事の始まりらしい。 腰が「く」の字に曲がったK婆さんが、吹き荒ぶ雪の中で懸命に歩道橋の雪を片付けるその姿に心を打たれ、近所の皆さんが一人二人と手伝う様になったとのこと。
K婆さんは7年前に亡くなったが、入院先の病院にK婆さんを見舞った時に、10数名の仲間に話し聞かせたという。
「アマゾンに伝わる、ハチドリの物語を知ってるかのお?
森に大きな火事が起き、森の生き物達が我先にと逃げたそうじゃ。
そんな中、一匹の小さなハチドリだけは逃げもせず、川と森の間を何度も往復し、口ばしに溜めた水滴を燃え盛る火の上に撒いていたそうじゃ。
その様子を見て森の動物たちは皆笑ったとさ。
『無駄なことは止めろ! そんな事で火は消えないよ!』 その言葉にハチドリは答えたそうじゃ。『無駄でもいいの! いまわたしにできる事をしたいだけなの!』」
病床でそんな話をして数日後、K婆さんは息を引き取ったという。
南米アンデスに伝わる話を言い聞かせる事で、「地域住民が互いに助け合う」ことの重要性を説いたのに違いない。
そして「例えちっぽけな事でも、自らが行動する」事の重要性を話したかったのに相違ない。
この話に胸を打たれた仲間達は、横断歩道橋に「はちどり横断歩道橋」と名付け、今も歩道橋の清掃と除雪活動を続ける事で、K婆さんの遺志を継いでいるという。