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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第10回 入選一般部門

長期欠席の仲間にクラス全員で学力サポート

信原 和夫(大阪府)

 いまから四十年ほど以前、わたしがまだ小学校の教員をしていたときの話です。
 ちょうど六年生の担任をしていたわたしはある日A君の母親の訪問を受けました。
「先生。実は息子が両足を疲労骨折して、二ヶ月は通学できなくなりました」
 わたしはそれを聞いて驚きましたが、A君はスポーツが好きで少年野球のチームに入っていると聞いていたので熱心に練習しすぎたのかもしれないと思いました。しかし、六年生の二学期という大事な時期に二ヶ月も学校を休むことになると、大幅に学習内容に遅れが出てしまいます。
 わたしは翌日、クラスの子どもたちにこの事実を報告しました。
 その日の授業が終わった後の学級会でのことです。学級会が始まると、一人の女子児童が手を上げて言いました。
「A君のことで、私たちが何をしてあげればいいか話し合いたいと思います」
 もちろん全員が賛成で、次に何をするのがいいか話し合いになりました。このような場合、よくあるのが、手紙や寄せ書きを書く、あるいはみんなで千羽鶴を折るということです。ところが一人の女子児童の意外な発言にわたしは驚きました。
「二ヶ月も学校を休めばA君の勉強はとても遅れると思います。だから、A君が学校に来られるまで、毎日みんなが順番にA君の家へ行って、その日に学校で勉強したことを教えてあげればいいと思います」
 わたしがさらに驚いたのは、司会者が、「この意見に賛成の人」と、賛否を聞いたとき、クラス全員が挙手をして賛成したことです。
 わたしが戸惑っているうちに話し合いはどんどん進み、一人ではわからないこともあるだろうからと二人ずつ組になって行く、そして、行く順番の表を作成するなどがその場で決まってしまいました。
 学級会で決められたことはA君のお母さんも了承してくださり、早速次の週から実行に移されました。
 授業中、その日の当番に当たった子どもは必死にわたしの話を聞き、ノートをとるようになり、クラス全員の学習意欲も向上してくれるのがひしひしと感じられました。
 わたしも、今まで以上に教える内容が子どもに伝わるよう、板書などの工夫をしました。
 そして、約二か月半、A君が登校できるようになるまでそれが続きました。そして、心配していたA君の学力も全く他の級友たちと変わることなく、ご家族の方からもクラスの子どもたちに感謝の意が伝えられました。その後もクラスの結束が強まり、何一つ問題が起こることなく三月の卒業を迎えることができました。
 学級会で一人の発言からクラス全員が心を一つにして仲間を支えることができたこの出来事は、必ず彼らの人生の中で大きな力になったに違いないと信じています。

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