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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第10回 入選一般部門

親切のパスゲーム

宮沢 早紀(東京都)

 仕事帰りで地下鉄に乗っていた時のこと。赤ちゃん連れのお母さんが、観光客と思しき外国の方に何かを尋ねられていました。様子を見ていると目的地であるレストランの住所を見せられ、どの駅で降りれば良いか聞かれているようでした。お母さんは「知らないお店...調べたら分かるかも」とスマートフォンをバッグから出そうとしました。しかし、揺れる車内でベビーカーを支えながらだったため、うまく取り出せずよろけそうになっていました。
 ちょうどスマートフォンを出していた私は咄嗟に「何というお店ですか?」と声をかけました。外国の方に紙を見せてもらって検索すると、なんと、今乗っている電車と反対方面の駅にあるお店でした。「逆方向ですね...」と電車を一度降りて逆方向の電車に乗り換える必要があると伝えると、外国の方は困った様子で車内の路線図を見上げていました。その方は少しだけ日本語が分かるようでしたが、説明の間に駅名を何度も聞き返されました。そんなやりとりをしていると、先ほどのお母さんが「駅の記号を書きましょう」と言って外国の方が持っていた紙に降りる駅の記号を書いてあげました。記号を書いてあげたことで降りる場所は理解してもらえた様子でしたが、問題は乗り換え。「一緒に降りて反対方面の電車に乗せてあげたほうが良いかしら...」と私とお母さんは二人悩んでいました。
 すると、「僕、次の駅なので。案内しますよ」と近くにいた男性が案内を申し出てくれたのです。お母さんも私も、男性の助け舟に笑顔になりました。駅に着くと外国の方は「ありがとうございます!ありがとう」と大きな声で何度もお礼を言いながら電車を降りていきました。車内にいた人たちにも笑みがこぼれるのが分かりました。私たちは二人を見送り、ホームにいる二人も笑顔で手を振ってくれました。不思議なくらい皆の親切がつながり、心が温かくなる出来事でした。
 電車が動くとお母さんは「ありがとうございました。助かりました」と私にお礼を言ってくれましたが、駅名を記号で説明してあげるなんて私一人では思いつきませんでしたし、一緒に降りると声をかけてくれた男性がいなければ、こんなにスムーズにはいかなかったことだと思いました。こんな素敵な、そしてちょっと楽しい親切のパスゲームをまたできたら良いなと思いながら帰ったのでした。

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