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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第10回 藤野涼子賞青少年部門
私のスーパーヒーロー
中村 有希奈(東京都)
目が覚める。おもむろに支度を始めるもまだ信じたくない。今日が一般受験当日だという事を。テレビからは、「今日は皆さんにとってとても大事な日なので頑張ってください」と、名前も知らないアイドルが、他人事かのような噓臭い笑顔を全国の受験生に見せつけていた。少しだけ腹が立った。しかし、こんな事を思う程に私は切羽詰っていた。
事前に調べておいたバスに乗るため、そろそろ家を出る。忘れ物が無いように念入りにチェックし、片手には復習プリントと赤シート。靴をはいて「いってきます」、「頑張ってきなさいよ」の母の言葉に強く背中を押され、ようやく今日という日に向き合う覚悟ができた。しかし、バスに乗り一人になると、急に抑えていた不安と変わらない日常の冷たさで押し潰されそうになった。
そんな事を考えながらもバスに揺られる事約15分、人が続々と乗ってくる。プリントに集中し切っていた私は少し疲れたので顔を上げる。すると一気に冷汗が流れた。目の先には、聞いた事も見た事もないバス停が表示されている。私はすぐに次のバス停で降りた。よく考えてみれば乗る時、色や終点先の表示を注意して見ていなかった。私は焦り泣きそうになった。走ってでも元のバス停に戻ろうとしたが、現在地が分からないのだから当然無理だ。どうしようとあたふたしていると、背の高い30代くらいの女性が声をかけてきてくれた。震えながらに事情を伝えると背中をさすって「大丈夫。ここから高校まで然程遠くないから送って行ってあげる。」優しい声と、救いの手が弱った私の心に光をさした。
そして、小さな男の子をだき抱え、車に乗せる。「この子乗っけてれば誘拐される心配ないでしょ?」と笑って飲み物をくれた。時間にはまだ余裕があったため、少し心が落ちついた。他愛もない会話をしていた時間はあっという間で、高校へはすぐに着いた。降りる時、「本当にありがとうございました。また改めてお礼がしたいのでお名前と電話番号教えてもらって良いですか?」と聞くと女性は、「そんな事覚える前に覚えなきゃいけないことがもっとたくさんあるでしょ。頑張ってきなさいよ。」そう言って車を走らせて行った。私はその「頑張ってきなさいよ」の言葉が家を出る時の母の言葉と重さなり、温かい気持ちになった。
会場へ向かう。さっきまでの不安も無くなりテストに挑む二度目の覚悟を決める。試験終了のチャイムと共に、私の受験はこれで終わったのだという解放感に溢れた。
そして、あれから約三年が経とうとしている。これを書いている現在、私は高校三年生だ。今、困った誰かを助けたいという思いからボランティア活動をしているが、その度にあの女性のような強い自分になれた気がする。
もしまたあの女性に会えた時には「無事に高校生になれました」と伝えたい。