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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第11回 しんくみ大賞作品・入選者

あたたかな小さい手のリレー

山﨑 浩敬(和歌山県)

 私は、視覚に障害があります。平成十七年に、仕事を休職して視覚障害者リハビリテーション施設で、復職に向けた訓練を一年間受けて復帰しました。
 白杖を持ってバスでの通勤でした。中途障害の為、当初は不安でいっぱいでした。会社に着くと、ほっとして緊張がほぐれて、何もできない状態、という毎日でした。
 朝の通勤に使うバスには、和歌山大学附属小学校の児童が乗っています。ある朝、「おはようございます」というかわいい声が聞こえました。「バスが来ました」また声が聞こえました。そして、私の腰のあたりに温かい小さな手があたりました。そして、バスの入り口前まで誘導してくれて、「階段です」と言い、背中を入り口方向に押し出してくれました。座席に座っている子に向かって、「席に座らせてあげて」と言ってくれました。感動です。私は遠慮しながら、「いいの?」と言うと、「座って」と返事が返ってきました。そして三年が過ぎ、その子も中学生になりました。でも妹が、その手引きを引き継いでくれて、私をバスに乗せてくれています。バスを降りる時も同じです。バスを降りると歩道を歩く私の腰を小さな温かい手で押してくれて、点字ブロックの上まで誘導してくれます。私は、大きな声で「ありがとう。車に気を付けてね」と言っていつも頭を下げます。
 そして、彼女も小学校を卒業しました。でも毎朝、背中を押して誘導する彼女を見ていた周りの子供たちにこの作業は引き継がれています。今では、誰かが背中を押す誘導をしてくれています。
 温かい小さな手の小さな親切が、次々と受け継がれています。
 あれから十五年以上、私も退職まであと一年と半年、失明をした時は絶望のどん底でしたが、温かい手の小さな親切のリレーで、退職まで何とか頑張れそうです。
 この子供たちが私を通じて何かを知ってくれたかな、学校の勉強でない何かを学んでくれたかな、と毎日、通勤で温かい小さな手と共に感じております。
 誰かに教わるのではなく、誰かがはじめた親切、それを見ていた周りが、何も言わないのにやってくれる。なんてすばらしい国なんだ、と感じております。

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