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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第11回 未来応援賞作品・入選者
出会いの終着駅
藤田 崇弘(岡山県)
「ぼく、おりる駅に着いたよ」
知らないおじさんに肩をたたかれて、ぼくは電車からおりることができた。
ぼくは電車が好きだ。小さいころから電車のおもちゃで遊んで本もたくさん持っている。幼稚園も電車で通った。今は毎週水曜、学校帰りに一人でおばあちゃんの家まで電車で行く。窓から外を見るのも、ふみ切りの音を聞くのも、車しょうさんのアナウンスもどれもワクワクする。だからいつもぱっちり目が開いているはずなのに、この日はいつの間にか眠っていたようだ。おじさんにお礼を言うのも忘れて、あわてて飛びおりた。心臓がバクバクして時限爆弾みたいだった。
「ふーっ。ききいっぱつ。たすかった。あぶないところじゃった」
でもおじさんはどうしてぼくの降りる駅を知っていたんだろう。何度考えても不思議だった。
次の水曜日、電車に乗ると助けてくれたおじさんがいた。この前のお礼を言わなくっちゃと思ったけれど、勇気が出なくて声をかけられなかった。そしてまたあの疑問がうかんだ。ぼくのおりる駅を知っているのは何でかな。魔法使いなのか。宇宙人なのか。頭の中はグルグルしていた。そんなことを考えているとおじさんと目が合った。おじさんはにっこり笑顔だった。ぼくは少し頭を下げた。
「水曜日は電車に乗るんだね」
おじさんがやさしく話しかけてくれた。ぼくは
「はい」
としか答えられなかった。ちゃんとお礼も言えなかった。きっとおじさんは前からぼくのことを気にしてくれて、おりる駅も知っていたんだ。だから眠っているぼくを起こしてくれたんだ。でも、知らない人に声をかけるなんですごい。おじさんはすごい。
今は夏休みで電車にのっていない。だからおじさんにも会えていない。二学期のはじめの水曜日、勇気を出しておじさんに
「ありがとう」
と言いたい。
電車はぼくにとって特別な場所だ。幼稚園のとき、電車の中で友達になった二つ年上のれんくんや、駅でお母さんを探せなくなって泣きそうになった時に一しょに探してくれた高校生のお兄さんや、駅をまちがえた時に電話をかしてくれたおじいさん。忘れ物をあずかってくれた駅員さん。ぼくはいつも失敗やハプニングを起こすばかりだけど、みんなが助けてくれる。ぼくも困っている人を助けられるようになりたい。
電車は人と人をつなぐレールを走っている。たくさんのありがとうを乗せて電車は走っている。ぼくもいつか、ありがとうを言ってもらえるような人になりたい。その日にむけて「しゅっぱつ、しんこう」