1. ホーム
    2. 全国信用組合中央協会とは
    3. 全国信用組合中央協会について
    4. ブランドコミュニケーション事業
    5. 「小さな助け合いの物語賞」
    6. 心を抱っこする

「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第11回 ハートウォーミング賞作品・入選者

心を抱っこする

大恵 やすよ(兵庫県)

 四か月健診の帰り道、私はうどん屋に立ち寄りました。健診で疲れたのか、娘はベビーカーでスヤスヤと眠っています。目を覚ます前に食べ終えようと箸を持った瞬間、娘が目を覚ましてしまいました。私と目が合うと、抱っこして! と泣き出す娘。
「今日はゆっくり、食べれると思ったのに......」
私は、心の中で大きくため息をつきました。夫がいない平日は、家事をしている時も、食事の時も、朝から晩まで抱っこの毎日です。
 抱き上げてあやすと、娘はすぐに機嫌を取り戻しました。しかし、テーブルの上に置かれたうどんに興味をもった娘が、グーッと手を伸ばして熱々のうどんをさわろうとします。もし私が食べている時に、娘に汁がかかっては大変です。私は、うどんが冷めるのを待つことにしました。すると、
「もしよければ、赤ちゃんを抱っこさせてもらえませんか?」
 隣の席に座っていた年配のご夫婦が、声を掛けてくださいました。
「えぇっと......」
 どう返事をしていいか悩んでいると、お腹の虫がグーっと音を立てます。
「すいません、お願いします!」
 私は娘をご夫婦に託して、急いで食べることにしました。途中、熱々のうどんに何度もむせてしまう私に、
「急がなくて大丈夫ですよ。少しでも赤ちゃんと触れ合っていたいですから」
と、ご夫婦がやさしい笑顔を向けてくださいました。
 うどんを完食した私が礼を述べると、
「私たちの孫はもう大学生で、こんなに小さなお子さんと触れ合う機会がなかなかないから、いい経験をさせてもらいました」
と、逆にお礼の言葉をいただきました。
 謙虚なご夫婦のお言葉は、私の体を包み込む温かさがありました。それに私の心は、風船のように軽くなっていました。まるで、ご夫婦が私の心も抱っこしてくださったような感じでした。
 私は、ご夫婦から学んだことがあります。それは、小さい頃に両親や学校の先生から、「お年寄りには親切にしましょう」とよく言われました。このことから年齢を重ねるに従って、親切は与える側から受ける側になっていくものだと考えていました。しかし、助け合いに年齢も性別も関係はありません。
 そして、相手のことを考えて言葉を選ぶことで、真に心から寄り添えることを教えてもらいました。「大丈夫ですか?」と、ついつい私はいつも声をかけてしまいますが、「何かお手伝いすることはありますか?」と、少し言い方を変えるだけで、相手の返答の仕方が変わってきます。ちょっとしたことですが、そういった少しの気遣いが、助け合いの輪を広げるきっかけになるのではないかと思いました。
 ご夫婦と出会えたことで、私の目の前にはやさしい光景が広がり、この気持ちを次の誰かにつなげたい! 助け合いの輪を広げたい! そんな気持ちでいっぱいになりました。謙虚さを忘れず、困っている人にそっと手を差し伸べられる、あのご夫婦のように、今度は私が誰かの心を抱っこしてあげたいです。

緊急連絡先