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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第12回 ハートウォーミング賞作品・入選者
男の子が教えてくれたこと
手嶋 伊津希(福岡県・東明館中学校)
僕は小学生の時、バスで通学していた。朝は通勤の大人で混んでおり、帰りは学生でいっぱいだった。
一学期が終わり、終業式の日のことである。この日は、学校の道具をすべて持って帰るため、荷物がいつもより多かった。それに加え、七月ということもあり、とても暑かった。
荷物を両手に持ち、バスを待っていると、バスが来た。バスの中はエアコンが効いており、本当にありがたい。
次のバス停で、お腹の大きな妊婦さんと三歳位の男の子が、手を繋いで乗ってきた。その日は終業式だったので、帰る時間がいつもより早かったが、それでも昼間のバスの席は空いていなかった。
僕は、二人用の席が空いていたので、そこに一人で座っていた。そして、その親子が乗って来た時に席を譲った。お母さんからも男の子からもお礼を言われた。僕は他に空いている席がなかったので、棒につかまって立っていた。
しばらくすると、何か視線を感じた。さっきの小さな男の子が、僕に手招きをして呼んでいる。僕は一瞬どうしたのだろうと思い、近付いていくと、男の子が席を僕に譲ってくれた。僕は慌てて、
「座っていいよ。」
と言った。すると男の子は、
「お兄ちゃんは荷物がいっぱいで重そうだから、座って。」
と言ってくれた。気持ちは嬉しかったが、小さな男の子から席を譲ってもらってよいものかと悩んでいた。すると、男の子のお母さんが笑顔でうなずいてくれた。僕は頭を下げ、座らせてもらった。男の子は僕の横でずっと笑顔で立っていた。
このことが、僕の六年間のバス通学の中で一番嬉しい出来事である。
僕は、小学校に入る前に、母からバスのマナーについて教えてもらった。その時に、自分が困っていそうだなと思った時は、すぐ席を譲るのよ。と言われた記憶がある。
あの小さな男の子は、僕を見て席を譲ろうと思ってくれたのだと思うと、心が温まる。自分が座っていることもできるのに、僕を呼んでまで譲ってくれた気持ちが本当に嬉しい。
世の中の人が、ほんの少しでもいいから相手を思い合う気持ちがあれば、きっとみんなの心が豊かになると思う。
僕は今、中学生になり、電車通学になった。母が入学前に教えてくれたこと、小さな男の子が譲ってくれたことを思いながら電車に乗っている。
これからも、ずっとあの男の子のように、思いやりの気持ちを持って通学する。