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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第12回 ハートウォーミング賞作品・入選者

温かい人

仲間 朱梨(大阪府・大阪芸術大学短期大学部)

 カバンにたくさんの参考書を詰めて家を出る。イヤフォンをして洋楽を選択し、音楽が流れると足取りが軽くなる私。だが、すぐに足を止めた。前を歩いている、近所のいつも散歩ばかりしているおばあちゃんが、小銭を盛大にぶちまけたのだ。私の方が慌てふためいてしまい、大急ぎで地面に広がるお金を拾い集め、渡した。顔を上げると
「ありがとねえ、優しいお嬢ちゃん。」
と、微笑むおばあちゃん。その言葉を聞いて、嬉しくなって、もっと、喜んでもらいたいとも思った。
「あら、紐がぶらついているわ、ふふ。」
そう微笑みながら、おばあちゃんは、私の背中でブラブラと揺れているイヤフォンを「よいしょ」と、首にかけ直してくれた。その手は温かくて、柔らかくて、愛おしく思えた。
「ありがとうございます。私、隣のマンションなんです。」
「あらそう! たまに可愛らしい制服の子が歩いているとは思っていたの。今日は私服でお出かけかしら? 重そうな荷物ね。」
「受験生なので、ちょっと自習室へ。」
「大変ねえ、あ! お邪魔しちゃったかしら」
「いえ、初めてお話できて嬉しいです!」
そう言うと、とっても嬉しそうにおばあちゃんは手を合わせて、「私もよ。」と答えた。聞くと、一人暮らしで、話す相手がいないらしい。周りは、徘徊している老人と噂していたから、近付き難いイメージだったけど、今日で180度印象が変わった。
 それから、会うたびに軽くお話をするようになった。私の学校生活のことや、部活動、受験の悩みなど、本当の家族のように相談に乗ってもらった。高校に受かった時は、大喜びして褒めてくれた。でも、私が高校に入学して1ヶ月ほど経つと、話しかけた時に不思議そうな顔をするようになった。それでも、いつも通り優しく微笑みながら話を聞いてくれた。おばあちゃんのことを何度も聞いた、何度も教えてくれた。私はうっすら気づくようになった、おばあちゃんは忘れやすくなってきているのだと。三日前に話したことや私の名前すら忘れたようだった。よく、呼んでくれていたけれど。
 それでも私は毎回話しかけた。ずっと覚えていて欲しかったから。
 ある日、パタリと会わなくなった。心配と寂しさを抱きながら過ごしていると、夜に何台かの救急車とパトカーが家の近くに止まっていた。私が様子を見に行くと、一人の女性が涙を流していた。周りに何があったのかを聞くと、女性は、あのおばあちゃんの娘さんで、家を訪ねるともう、息はなかったそう。私はその場で大泣きした。その様子に気づき、女性が近づいてきた。
「あなた、母さんとよく話してくれていた子かしら?」
目を赤くした女性は、私に尋ねる。
「おばあちゃんですか? よく、お世話になりました。優しくて、可愛い人で・・・」
「そう、あなたが。電話でいつも楽しそうに話していたわ。優しくて可愛い女の子と仲良くなったって・・・ありがとう、ありがとう。」
また、二人で泣いた。

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