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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第12回 ハートウォーミング賞作品・入選者

垣根

山本 築(福岡県)

 中学生の頃、同じクラスに足の不自由なSという友人がいた。Sは学校内を車椅子で移動し、段差を越えないといけない場合にはまわりの生徒や先生に協力してもらいながら学校生活を送っていた。
 私はSと毎日机を並べながら、しかし、彼とのあいだに距離を感じていた。生まれつき車椅子の生活を余儀なくされたSの人生には苦労が多いはずだった。たとえば給食の配膳一つとってもSのときにはそれなりに時間が掛かった。私はそんなSの生き方に半ば同情のようなものを覚えていた。
 そんなある冬の日、部活動を終えて駐輪場に向かった私はそのときになって自転車の鍵を失くしたことに気づいた。練習が終わったあと少し部室に残っていたために部活の仲間はすでに帰ったあとだった。田舎の中学校は田んぼに囲まれた辺鄙な場所にあり、そこから自転車でも四十分以上掛かる家まで歩いて帰るわけにはいかなかった。
 自転車の鍵はなかなか見つからなかった。すでに日は沈み、下校中の生徒も数えるほどになっている。私は心許ない気持ちを抑えながら、校舎と駐輪場のあいだを何度も往復した。
 しばらく探し歩いていると、委員会の仕事で遅くなったSとばったり会った。
「なんしよん」
「チャリの鍵失くしてしもた」
車椅子に乗ったSは少し困ったような顔をしながら、私の表情から何かを読み取ったように言った。
「よし、一緒に探しちゃる」
 Sはそう言うと、車椅子を器用に動かして鍵を探しはじめた。私はすぐに断ろうとした。が、その断るための理由を上手く伝えることができずにもう一度駐輪場までの道を歩いた。
 私はSと一緒に自転車の鍵を探しながら、Sに手伝ってもらってもどうせ見つからないだろうと思っていた。しかし、それは偏見に違いなかった。Sは落ち込んでいる私を慰めるように陽気に振る舞い、大丈夫すぐ見つかる、と声を掛けてくれた。その言葉にいくらか気持ちを持ち直した私は、自分がこれまでひどい思い違いをしていたことに気づいた。障がいのあるSは人から助けられる側だとばかり思い込んでいた。車椅子から乗り出すような格好で暗くなった地面に目を凝らすSの姿を見て、自分のその考えを恥ずかしく思わないわけにはいかなかった。
 自転車の鍵は結局部室のドアのあいだに落ちていた。それを見つけたSは、まるで自分のことのように喜んでくれた。私はSの手から鍵を受け取りながら、何度も深く頭を下げた。
 中学校を卒業して以来、Sとは会っていない。それでも、あのときのSの笑顔は今も私の記憶のなかに焼き付いている。誰だって誰かを助けることができる。そこに垣根など存在しないことを教えてくれたSはいまでも私の恩人だ。

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