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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第13回 ハートウォーミング賞作品・入選者
顔を知らないあの人
山本 花鈴(愛知県・愛知学院大学)
私が小学5年生の時、学校で「一人暮らしのお年寄りへ元気を送ろう」という取り組みで近所のお年寄り6人へ暑中見舞いを送った。水彩絵の具で西瓜や海を小学生らしい絵柄で描いた絵葉書を放課後猛暑の中直接届けに行った。坂の多い住宅街を歩き回るのは大変だったのだが、中にはジュースをご馳走してくれる方もいて、玄関先で飲む冷えたジュースはとても美味しかった。5枚のハガキを直接渡すことができ、残りの1軒のインターホンを鳴らしたのだが、返事もなく誰も出てこない。もう1度鳴らしても同じだったため、留守なのだと思ってポストへ投函して帰宅した。
2週間後のある日、見慣れない名前の方から1枚のハガキが届いた。「素敵なハガキをありがとう。先日は家に居なくてごめんなさい。とても上手な絵ですね。」フランスのエッフェル塔が描かれているとても綺麗な絵葉書の差出人の苗字は、あの留守だった家の表札と同じものだった。その日を境に私達は文通をするようになった。そこで相手は70代女性で、旦那さんが他界されて以来一人暮らしであること、娘さん一家は県外に住んでいることを聞いた。
そして、中学1年生の春になった。明るい新生活が始まると思った矢先に私の母の癌が見つかった。治療のために引っ越すことや、母親が亡くなるかもしれないことへの今まで感じたことがない恐怖感で毎日不安で仕方がなかった。妹が幼く、父も忙しいため姉である私がしっかりしないといけない。そんなプレッシャーを感じていた私を支えてくれた人は身内ではなく、文通相手の女性だった。その1年半後に母親が亡くなってからも行き詰まった私を励ましてくれたのも、文通相手だった。
だが、中学3年生の半ばに相手から連絡が途絶えてしまった。私は受験シーズンだったこともあり、気にも留めていなかったのだが高校1年生の春に1枚の手紙が届いた。その内容は、文通の相手だった女性が半年前に他界されたことを知らせるものだった。差出人は文通相手の娘さんで、私が送った手紙を見つけて連絡をくれたのだという。「自分の孫には長期休みにしか会えず、1人寂しい老後生活を送っていた母にとって文通はささやかな楽しみだったと思う」と言われた私は思わず泣いてしまった。
もとは「一人暮らしのお年寄りを1人にしない」という取り組みから始まった文通だったのに、実際は私が辛い時、行き詰まった時、高校の選択に迷った時など、1人で不安な時に助けて貰っていたのだ。感謝の言葉を述べようにも本人はもうこの世にはいない。いつか、私も他人の心の拠り所的な存在になれるような人材になりたい。そして、この場を借りて天国の女性に感謝を述べたいと思います。本当に有難う御座いました。