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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第13回 ハートウォーミング賞作品・入選者
チームワーク
宮崎 みちる(千葉県)
(あんな所でも踊る人がいるんだ)
大型商業施設前の一本の木の下を回るようにして、体をくねらせる男の人を遠目に見かけた。天気の良い日曜日の昼下がり。引きも切らずに行きかう人々は、ゆったりと歩いている。みんな気付いていないのか知らん顔をしているのか、足を止める人はいなかった。私も近づくにつれ、目をそらそうと思った。ところが様子がおかしい。と、その人が急に崩れた。慌てて駆け寄り支えようとしたが、大きな体に押しつぶされそうになった。どうしようと思っていると、一人の若い男の人がすっと間に入ってきて支えてくれ、倒れてきた男性をゆっくりとその場に寝かせることができた。男性は、意識が遠のいていた。そこへスーツ姿の女性がスマホを手に急ぎ足でやってきて、「私、救急車呼びますね」と言って電話を掛けた。そのすぐ後に中年女性がやってきた。「大丈夫ですか」と言いながらカバンの中からタオルを取り出し、丸めて男性の頭の下に差し込んだ。みんなで男の人を取り囲んで首回りやベルトを緩めたり、扇いだりした。その間に、何人かの人々が「何か手伝うことはありませんか」と立ち止まって声を掛けてくれた。そうこうしているうちに男性は気がついたが、何が起きたのか分からないようだった。起き上がろうとしたのだがみんなで制すると、「済みません」と言って目を閉じた。どうやら踊っていたのではなく、けいれんしていたようだ。木に引っかけたかすり傷を負っていた。近くに人待ち顔で立っていた若い女性が、絆創膏を差し出した。
間もなく救急車が来た。状況を確認して男性を乗せていくと、集まっていたみんなは蜘蛛の子を散らすように去っていき、何事もなかったようにのどかな風景に戻った。
時間にして何分ぐらいの事だったのか。一連の出来事は、走馬灯のように流れていった。その時は必死になっていて分からなかったが、後になって気づいた。だれもが人に指示されることなく自主的に役割分担して、まるで一つのチームのように動いていたことに。一人だったら、こんなに手際よくできなかっただろう。私も助けられていたのだ。
最近は、天災、人災、事件が多発し、歩いていても一歩先は何が起こるか分からない。そんな中、見ず知らずの人々が少しずつ助け合いの心を持ち寄って協力し合うことで、助け合いの輪が広がっていったら、そんな頼もしいことはない。人に寄り添う心を普段から持ち歩くことが大切だと改めて思った。
世の中誰もが人に無関心、関わりを持たないようにしていると言われて久しいが、まんざらでもない。倒れた男の人は災難だったけど、ほっこりと心があたたかくなった日曜日の昼下がりだった。