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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第13回 ハートウォーミング賞作品・入選者
演歌のある公園
福田 かほり(長崎県)
天気のいい秋の日だった。私は二歳の息子を連れて、久しぶりに近くの公園に散歩に出掛けた。近づくにつれて、その場所にはなんとも似付かないような演歌が、高らかに響いてきた。公園に到着し、音の出所を不思議に思って見回すと、男性が一人、ラジカセをそばに置いて作業に没頭していた。八十歳くらいのその男性は、公園の落ち葉を掃いて集め、かごに入れて、それをカートで集積所に一生懸命に運んでいた。優雅な曲とは反対に、その作業はとても大変そうだった。車やタイヤが好きな息子は、興味深そうにカートを見ている。「おじいさん、お掃除をしてくれているね」「一緒にやってみようか」私の声掛けにニコニコと応える息子を見て、私は男性に声を掛けた。
「お手伝いしてもいいですか?」
その男性は、声を掛けられたことに驚いた様子だった。しかしすぐに道具の場所と、掃除の手順を教えてくれた。私は竹箒を使って、落ち葉の山をいくつか作り、それを箕ですくってかごに入れた。息子はひときわ小さな熊手を借りて、落ち葉を連れて回り、面白そうに掃いている。そうして葉っぱでいっぱいになったかごを、カートに乗せて息子と一緒に押した。そばに流れる演歌も、なんだか楽しい曲に感じた。三人ですっかり落ち葉の山を回収してしまうと、公園がきれいになり、とても気持ちよくなった。男性は言った。
「何十年もここで掃除をしているけど、手伝うなんて声を掛けてもらったの、はじめてだよ」
男性はとても嬉しそうにはにかんでいた。一人でずっと掃除を続けていたら、文部科学省から賞状をもらったんだよ、と誇らしそうだった。私は息子が生まれてからこの町に引っ越してきたのだが、この公園でいつも気持ちよく過ごせるのは、この男性の尽力があったことに、その日はじめて気づいたのだった。
そして私にとって驚きだったのは、男性の発言だ。この公園は、散歩をする人、広場でスポーツをする人、遊具で遊ぶ子どもたちなど、たくさんの人が訪れる。それなのに一緒にやりたい、と助け合うことがなかったのだ。ほんの一声、声を掛けて助け合うと、いつもと少し違う、彩りのある時間を過ごせる。公園を訪れる子どもたちに体験して欲しい感覚だった。
その後も、秋の間中、落ち葉を掃除した。それを見て、声を掛けてくれる人が出てきた!興味深そうに見ていた他の子どもが、一緒に掃除を始めることもあった。
あの日以来、公園から演歌が聞こえると、いつも楽しい散歩になる。