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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第13回 しんくみきずな賞作品・入選者

お弁当についているメッセージ

迫田 彩夏(鹿児島県)

 二〇二二年八月某日、私は今、コロナウイルスに感染し、一人ホテルで療養中である。ここは、日中でも電気がないと部屋は真っ暗で窓も開かない。日に日に体調は良くなっている安心感はあるものの、少し残る症状や、後遺症への不安に押しつぶされそうになる。もちろん、病気自体の辛さはある。しかしそれよりも、人に会うことや話すことのできない孤独感からくる辛さの方が勝っているような気がする。何とも言えない気持ちになるのだ。
 しかし、たった一つだけ、ここでの楽しみがある。それはお弁当に割りばしを固定するためのシールに描かれている励ましのメッセージを見ることだ。メッセージも多種多様である。お弁当を仕出ししてくださる会社のスタッフの方々からのもの、書道部の高校生がアートを交えて描いたことわざや、中には、小学校一年生の女の子が、たくさんのイラストを添えて書いてくれたメッセージもある。その一枚一枚を私は部屋の見えるところにきれいに飾り、くじけそうなときや不安なときにぼーっと眺めていると元気が出てくる。コロナになんか負けてたまるかと強い気持ちになることができるのだ。ホテル療養について色々な話を聞いたことはあったが、まさかこんなサプライズがあるのだなんて想像もしていなかった。私は今、顔も名前も知らない人たちからたくさんの元気をもらっている。本当は直接会って、一人一人にお礼を言いたいと思うが、それは難しいだろう。この場を借りて感謝の気持ちを伝えたい。
 私は今、新しい形での親切を享受しているのだと思う。人と人が直接関わる形で生まれる親切は、今までもよく経験してきた。しかし今、ここに飾られている一つ一つのメッセージを描いた人々は、見えない誰かのことを思い、読んだ人が少しでも元気になるようにと願いを込めて描いているのだと思う。たとえ直接、
「早く元気になってね。」
と言われなくても、この一枚のシールに描かれたメッセージからは、まるで直接励ましの言葉をかけてもらっているかのような温かさが伝わってくる。心のこもったこの優しいメッセージの一つ一つは、こんな状況の中でも私に、誰かとつながっているのだ、私は一人ではないという安心感を与えてくれる。見えない誰かを思う優しさ、またそれを享受できることの喜びを知ることができたという意味では、この経験も全てが無駄ではなかったように思う。
 現在時刻は十七時半。夕食の配布を知らせる館内放送が流れる。
「今回は誰からのどんなメッセージがついているのかしら......」
 わくわくしながら部屋のドアノブにかけられたお弁当の袋を手に取る。

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