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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第13回 しんくみ大賞作品・入選者

近所の定食屋

松川 理沙(岡山県)

「元気のいい挨拶だね」
 そう褒めてくれたのは、登下校で必ず通るところにある定食屋のおばちゃん。私がまだ小学生の頃、朝と夕方に外に出てきてくれて私たちを見送ってくれていました。そこの定食屋さんは、入り口に貼ってある紙がとても有名なお店でした。その貼り紙にはこう書いてあります。「こどもたちへ。おうちにごはんがなかったり、ひとりでたべるのがさみしいとおもったらいつでもみせにおいで」
 ある日、親からご飯代として千円を渡されました。親はすぐに仕事場に戻り、一人でご飯を食べに行ったことがない小学生の私は、どうしようかと悩んでいました。そこで、あの貼り紙、いつも挨拶をしてくれるおばちゃんの顔が浮かびました。私はその定食屋まで走り、ドアを開けました。
「おお、りさちゃん。こっちに座んね。」
と、事情も聞かずに席に通してくれました。待っていると、おばちゃんがあったかいお味噌汁とご飯、チキン南蛮を持ってきてくれました。
「一緒に食べよう」
と、隣へ座り学校の話や家族の話などいろいろな話をおばちゃんは楽しそうに聞いてくれました。私は一緒にあったかいご飯を食べられることがうれしくて仕方がありませんでした。その日から、私はだれよりも大きな声で挨拶するようになりました。あの日に食べたご飯を一生忘れることはありません。
 中学生になってから、母が再婚したこともあり、隣の県へ引っ越しをしました。いま、その定食屋さんは続いているのかもおばちゃんが元気に暮らしているかもわかりません。あの日、おばちゃんに救われたことで私の人生が大きく変わったことは言うまでもありません。
 今、私は定食屋さんを経営しています。あの定食屋さんのように全く同じ貼り紙を貼り頑張っています。私と同じような境遇を持った子供たちが食べに来てくれます。立場が変わり、おばちゃんはこういう気持ちだったのかと気づくことがたくさんあります。当時は、なぜ知らない子供にご飯を提供しているかわかりませんでしたが、今ならわかります。「おいしかった。ありがとう」「またたべたい」などの純粋な子供の心に触れることができ、うれしくて生きがいになっているのです。私は、ご飯を提供した子供たちにはいつもこう言っています。
「お代はいいから、困っている人がいたらたすけてあげてね」と。

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