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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第14回 ハートウォーミング賞作品・入選者
手から手をつないでいく
栗林 良衣(岡山県)
ある日私は1人で病院受診へ行くため市内まで電車に乗って行った。最寄り駅で降り病院へ無事に着いたところまでは良かった。コミュニケーションが苦手な障害のある私にとって病院の中に1人で『入る』ということがとても怖く感じてしまい難しかった。そこで私はいつも周りに助けてもらっている時みたいに言葉のカードを使ったり手を出して助けてもらおうとしたが、みんな通り過ぎていくばかりだった。
だけどそんな時1人の妊婦さんが通りかかり私に『困ってるの? 1人で入れないの?』と少しびっくりしながらも声をかけてくれた。コミュニケーションが苦手な私は小さくうなずき『一緒に連れて行って』とこの一言を伝えるのが精いっぱいだった。それでもその妊婦さんは『いいよ。私と一緒に行こう』と私のリュックに付けていた札を見て手をつないで院内の受付まで連れて行ってくれた。
妊娠中でお腹も大きくとてもしんどい時だったろうに障害のある私に手を差し伸べてくれた妊婦さん。受付が終わった後わざわざ私の元へ戻ってきてくれてアメを2つ私の手に持たせてくれて、診療科へ進むまで見届けてくれていた。そのあと食べたアメはほんのり甘くて妊婦さんのようなやさしい味がした。
その後診察が終わり帰ろうと最寄り駅へ行った時、1人のおばあさんが荷物をたくさん持って困っていた。そんなとき私は数時間前私の手をひいて院内へ連れて行ってくれた妊婦さんを思い出し、恥ずかしながらもおばあさんに『持つよ』とたった3文字の声をかけた。そうしたらおばあさんはうれしそうに『ありがとう』と一言。妊婦さんに手をつないでもらったあと私も困ってる1人のおばあさんの手をつなぐことができた。誰かにつないでもらった手を自分も他の誰かの手をつなぐことができた。
ただ『手をつなぐ』簡単なことだけど知らない人が声をかけて小さな助けを差し伸べてくれる。自分もたった3文字の言葉から助けることができたそんなあたたかい優しさに気づいた日だった。