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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第14回 ハートウォーミング賞作品・入選者
優しいおせっかい
川上 祥子(岡山県)
教師になって二十年以上が経過した。
新採用の私が赴任したのは、県北の小さな町立中学校だった。全校生徒は四十名ほど、冬は一メートル以上雪が積もるが、あたたかい雰囲気の学校だった。
自宅から百キロほど離れていたため、その街に引っ越しをした。
「我が家」の近くには、小さな駅も役場も診療所も郵便局も金融機関もあり、当初の不安よりも快適な生活を送っていた。難点は、「余所から来た若い先生」と、いつもどこにいっても注目されること。周囲の優しさが、おせっかいに感じることもあった。
赴任して二か月ほど経ったころ、発熱して寝込んでしまった。学校には電話をして、二階の部屋で寝ていた。初めて一人暮らしの不便さを感じ、不安になっていた時、窓の外から声が聞こえた。
「おーい、先生、どうしたん。車があるが。寝込んどんか。」
近所のおばあさんだった。無視するわけにもいかず、なんとかベランダまで歩き、
「熱が出て休みました。」と伝えた。
うなずきながら去ったおばあさんは、三十分もたたぬうちにまたやってきた。
「おーい、先生」
聞こえぬふりをしようと思った。
「うちのきゅうりを車の前に置いといた。体が冷えるで。」
慌ててベランダに出た時には、もうおばあさんは下の道へ降りていた。
優しいおせっかいに感謝した。きゅうりはそんなに好きではないが、他人の私への心配りが嬉しかった。熱で火照った体がポカポカした。
夜になって、食欲が出てきた私はきゅうりを食べようかと冷蔵庫へ歩いた。その時、チャイムが鳴った。恐る恐るドアに近づくと、生徒のお母さんが立っていた。手には大きな土鍋を持っていた。
「先生、娘から聞きました。大丈夫ですか。あるもので鍋を作ったから食べてください。」
驚きながらお礼を言い、ドアをしめてすぐにその蓋を開けた。野菜だけでなく、お魚や海老、そしてうどんが入った豪華な寄せ鍋だった。残り物で作った鍋ではないことは一目瞭然。私の体は最高潮に熱くなった。
ここは、地元の人も余所から来た人もみんなで関わり合い、助け合って生きているのだ。
心まで温まる県北での三年間で気づいたことがある。
周りの人を思いやる心は誰にでもある。それを目に見えるアクションにするのが本当に「助けること」だと思う。
これからの人生で、私はこんな優しさ溢れるおせっかいなお母さん、おせっかいなおばあさんでいられるだろうか。人生後半、周囲を思う気持ちを大切に歩んでいきたい。