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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第14回 未来応援賞作品・入選者

素敵なクリスマスを

島田 将太朗(神奈川県・慶應義塾普通部)

 小学五年生のクリスマスの日、僕は母の用事に付き合うため、最寄り駅のホームで電車を待っていた。すると、おばあさんが、「この電車に乗れば藤沢に行かれるかしら?」と母に尋ねた。電光掲示板を見ると、次に来る電車は小田原行きだった。その次も、またその次も、藤沢には行かない。
 僕の最寄り駅は小田急沿線だ。小田急線には小田原線と江ノ島線がある。本数が多いのは小田原線だ。藤沢は江ノ島線にあるため、相模大野で乗り換えなければならない。母は丁寧に乗り換えを説明した。隣で話を聞いていると、藤沢の施設にいるおじいさんに会いに行くようだ。「いつもは息子や娘と一緒に車で行っているので、電車で行くのは初めてなの。」と少し不安そうに話していた。
 僕たちは小田原行きの急行に一緒に乗った。しばらくすると、僕たちの降りる駅に着いた。母は「相模大野で降りて江ノ島線に乗り換えてくださいね。」ともう一度伝えた。「ご親切にありがとう。」と言うおばあさんだったが、やはり不安そうだった。電車のドアが開いた。しかし母は降りなかった。「私たちも途中までご一緒しますね。」と僕の顔を見た。おばあさんは、「申し訳ない、申し訳ない。」と繰り返した。「この子、電車が大好きなので喜んでいると思います。」と母は笑顔で答えた。母の言う通り、一駅でも多く乗れることは僕にとっては嬉しいことだった。
 それに、もし相模大野で乗り換えできなかった場合かなり面倒なことになる。乗り換えができるのは相模大野だけなので、もう一度相模大野に戻って来なければならない。
 おばあさんは座りながら泣き出した。「こんなに親切にしていただいて嬉しい。」と母と僕に何度も言った。そしておそらくおじいさんと一緒に食べるためのパンの中からソーセージパンと、アーモンドチョコレートの箱を取り出し、「こんなものしかないけれどボクにあげて。」と母に渡した。母はもちろん断ったがおばあさんの気持ちを思ったのか、「ありがとうございます。大好物です。」と受け取った。
 相模大野に到着した。ここまで来たら、江ノ島線に乗るところまで見送ることにした。
 江ノ島線がホームに到着した。ここでも母と僕に何度もお礼を言い、最後に「素敵なクリスマスを!」とおばあさんが手を振った。今思い出すとなんだか映画みたいな別れ方だった。
 当然母の用事には遅刻した。でも母は笑顔だ。僕は大好きな電車に長く乗ることができ、そのうえ大好物のソーセージパンとアーモンドチョコレートまでもらえたのだからラッキーだった。おばあさんもラッキーなクリスマスになったと思ってくれていたら嬉しい。
 素敵なクリスマスを!

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