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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第14回 ハートウォーミング賞作品・入選者
声をかけてくれてありがとう
福山 千明(岡山県)
あの時はありがとう。と言いたい人たちがいます。その人たちは、名前も知らない、年も分からない、ただ分かるのは保育園の向かいにある小学校に通っていることだけ。毎日、決まった時間にお迎えにいく毎日、決まった場所でぐずる我が子たち。毎日、毎日、毎日、早くして、早くして、帰るよと泣きそうな声の母親。あの小学生たちにはどのように見えていたのだろう。
午後四時前、保育園を出て、離れた駐車場まで子ども二人を連れて歩いて向かう。大人が歩けば三分の距離。四歳と二歳、一人はダウン症と知的障害がありゆっくり歩き興味がある方へ時には駆け出してしまう。もう一人は、マイペースに毎日決まった場所で座り込み土いじりをはじめる。車の往来も激しい道で、たくさんのすれ違う人にすみません、すみませんと何度も何度も頭を下げ、二人を急かして帰る毎日に疲れ切っていました。
ある日、いつもと同じ帰り道、小学校の前を通って帰っていると活発そうな女の子が声をかけてくれました。「歩かないの? ママ行っちゃうよ?」座り込み土いじりをはじめた子どもに話しかけ、「ごめんね、この子たちゆっくり帰るからお姉ちゃんたちは先に帰って大丈夫だよ」と話すと「いいよ、一緒に帰ろうよ!」と明るく話してくれました。子どもたちはお姉ちゃんに言われるがまま歩きはじめました。
その日から、お姉ちゃん、時にはお姉ちゃんたち、お兄ちゃんたちに声をかけられながら帰る毎日に変わりました。私と子どもたちが帰っていると「あ、またあの姉弟! バイバイ!」「また、そこに座ってるんだ! 一緒に帰ろうよ」と声をかけてくれました。子どもたちはお姉ちゃんたちにかまってもらえるのが嬉しくていつもなにか話しかけますが、まだまだ言葉が拙い二人。「ごめんね、まだ上手にお話しできなくて。」と言うと「ううん! いいの。」「お姉ちゃんって言った!」ととても楽しそうに話してくれました。
そのことが、どんなに嬉しく有り難く思ったか、毎日の帰り道でどんなに励まされたかあなたたちは知らないかもしれない。大きくなると、自分と違うなと思った人と対峙した時、最初の一声に躊躇することが多くなるけど、声をかけてくれた小学生たちは一切の迷いなく、躊躇することなく声をかけてくれ、毎日つづけてくれた。きっと、気づいたでしょう。あれ? この子、私とちがう? って。けれど、そのことが声をかけない理由にはならなかったのでしょう。あなたたちの姿をみていると強い個性を持って生まれた我が子たちがこれから生きていく世界はいろいろな人たちが共存していく世界で、新しい当たり前がたくさんあるのだろうと希望が持てる毎日でした。
この四月からは違う幼稚園に通うことになりあの毎日通っていた道はもう、通ることがなくなりました。名前も知らないけど、毎日声をかけつづけてくれて本当にありがとう。いつかまた出逢えたら少しは上手になったお話をきいてあげてほしいです。