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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第14回 しんくみ大賞作品・入選者
私の大好きな町
佐伯 理奈(東京都・光塩女子学院高等科)
「スミさーん、大丈夫? 私が運ぶよ。」私は前を歩いている荷物を持ったおばあさんの背中に声をかけた。「あ、理奈ちゃん、おかえり。」スミさんが振り返って、立ち止まった。私は小走りで近寄り、スミさんが手に持っていたエコバッグを預かった。2リットル入りのミネラルウォーターのペットボトルがちらっと見えた。「あらあら、重かったでしょ? じゃあ、行こう。」私はそう言って、スミさんと歩き出した。
この町で生まれ育った私には、挨拶を交わす「ご近所さん」がたくさんいる。「あ、理奈ちゃん。今日もお疲れ様です。」スミさんのエコバッグを持つ私を見て、敬礼しながら声をかけてくれたのは高木さんだ。「ただいまです。お荷物運搬中です。」私がおどけて答えると、高木さんは、「理奈ちゃん、病院の予約、しっかり取れていたよ。」とおっしゃった。高木さんが通院している病院は、診察時間のインターネット予約が可能になったが、予約の取り方が分からない高木さんは、今まで通り、朝一番に病院に行って並んでいたらしい。数日前にその話を聞いた私は、高木さんのスマホで一緒に「診察予約の練習」をしたのだ。「お! 良かったです。分からなくなったらいつでも聞いてください。」私は、ガッツポーズで応えた。スミさんも、「私も、前に理奈ちゃんにワクチンの予約を取ってもらったのよ。混雑で電話が全然つながらなかったからね。あのときはありがとう。」と私の腕を優しくさすりながら言ってくださった。
近所に住む方とこういった関わりを持つ私のことを「えらい」と感心してくれる人もいるかもしれない。しかし、私は一方的に「助けている」わけではない。私の方こそ、ご近所さんに長年「助けられている」のだ。スミさんは、毎朝、家の前を掃除しながら駅に向かう私に挨拶してくださる。高木さんは、私が帰ってくる時間に庭で水撒きしながら声をかけてくださる。「カラスがゴミを荒らさないように見張ってるの。」「夕方になってからじゃないと暑くて水も撒けないや。」なんておっしゃるけど、私を見守ってくれているのだ。小学生のころから電車通学している私は、地域の学校に通う子どもたちと違っていつも一人で歩いていた。そんな中、毎朝挨拶してくださったスミさん。優しい笑顔で声をかけてくださった高木さん。ほかにも、「何かあったら、うちまで走っておいで。」「暑いね。顔が真っ赤だから、ちょっと休んでいきなさい。」と、地域の皆さんが助けてくださったから、守ってくださったから、事故に遭うことも怖い出来事に巻き込まれることもなく、今日まで過ごせたのだと思う。
だから、私はご近所さんたちを一方的に「助けている」のではない。「助けている」ようで「助けられている」。そう! 「助け合い」という言葉が一番しっくりくる。「助け合い」そうつぶやくと、ご近所さんたちの笑顔が浮かんでくる。私はこの町が大好きだ。