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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第15回 ハートウォーミング賞作品・入選者

おじさんの自転車

西谷 隼(岡山県)

 私が高校生の時の話です。私の通っていた学校はサッカー部が有名な学校で、県内外からサッカー部に入る為に入学する人が多くいました。全国大会ベスト4、日本代表を2人も出した、全国でも名の知れた学校でした。私は、そのサッカー部に所属していて、レギュラーでした。3年生の秋、全国大会行きを決める大会があり、例年通り決勝戦まで勝ち上がりました。進学校でもあった為、大学受験を控えた私は、部活と勉強の両立で、忙しい日々を送っていました。決勝戦当日も、午前中に試験があり、試験が終わり次第、決勝戦が行われる会場まで両親の車で向かい、チームに合流する事になっていました。
 その日、試験が終わり、急いで学校を後にし、会場へと向かっていました。会場まで40分程、時間に余裕をもってチームに合流できます。学校を出てしばらく走っていると、道が渋滞していました。ただ、時間にも余裕があったので、そのうち動くだろうと気にもとめていませんでした。しかし、5分以上経過しても全く車が進まない、進む気配もなく、だんだん心配になり、冷や汗が出てきました。車の外に出て遠くを見ても、延々と車が並んでいて、先の方で何が起きているかも確認できない状況でした。間に合わないかもしれない、そう思った私は「走っていくよ。」と両親に伝え、カバンを背負って道路脇を走り出しました。体力には自信があり、15㎞くらいならいけると思って走り出したものの、カバンの重さと残暑の影響で、体力が少しずつ削られていくのがわかりました。無事に会場に着いても試合に出る事ができるのか、頭に悪い妄想ばかり浮かびます。そんな事を考えていた時でした。急に、「こんな所で何してんねん。試合はどうした?」と知らないおじさんに声をかけられました。「走って向かってます。」と走りながら答えると、「あほ! 間に合う訳ないやろ。これ乗ってけ。」と自転車を差し出されました。つい足を止めた私に、「チャリンコは会場に置いとけ、おっさんも行く所やから。」と言いました。知らない人の自転車を借りることに戸惑いつつ、簡単に御礼を言って、私は自転車をこぎ始めました。後ろから、「絶対勝てよ!」と声をかけられた時、その優しさに目が潤んだ事を覚えています。自転車のおかげもあり、時間ギリギリでチームに合流できました。そして、優勝することができました。会場を後にする時、自転車を置いた場所に行ったけれど、自転車はありませんでした。結局、誰だったのか、御礼も出来ないまま今に至りますが、あの時助けて頂かなければ、全国大会という夢の舞台には立てていなかったかもしれません。
 私自身、3児の父となり、この出来事を子供達にも話しています。困っている人に手を差しのべる、行動に移せる人でいたい、子供達にもそうあってほしいと願っています。

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