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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第15回 ハートウォーミング賞作品・入選者

お爺さんと私。

佐々木 野花(静岡県)

 私がそのお爺さんと出会ったのは、毎朝乗る通勤バスの中だ。お爺さんは視覚障がいを持っていて、一人で杖をついてバス停までやってくる。お爺さんの様子を見るなり、私はすかさず助けに入った。「手伝います。」と声をかけ、お爺さんの手を引きながらゆっくり座席へと誘導する。幸いなことに、私とお爺さんはどちらも終着駅で降りるから、駅にある階段を使う時、私は自分の肩を貸すことができた。お爺さんは「本当にありがとう。私は目が見えないから、感謝の言葉を伝えることしかできないけれど。」と言って去っていった。私はその一言が、なんだかとても寂しく感じられた。
 その日以降、私はお爺さんを見かける度に声をかけた。最初はあたふたしていた私の動きも、今では「階段です。私の肩に手をおいてください。」と自信満々の声で言えるようになった。お爺さんとの会話も、「歩くの速くないですか。」という質問から、「今日は空が青くて綺麗ですよ。」という世間話へと変わっていった。
 また、心に余裕を持って、お爺さんを助けることができるようになると、色々と気づくことがある。一つ目は、歩きスマホの危険性だ。スマホを見ながら点字ブロックの上を歩く人は案外多い。私もお爺さんと出会う前は同じことをしてしまっていたから、心底反省した。二つ目は、点字ブロックの違いだ。実は、点字ブロックには、線状と点状の二種類がある。ネットで調べてみたら、線状は〝GO〟の意味を持つ「誘導ブロック」で、点状は、〝STOP〟の意味を持つ「警告ブロック」と呼ぶらしい。私は新しい発見に大興奮した。
 「明日お爺さんに会ったら、この話をしよう。」そう思って出勤した日のこと。私は仕事で大きなミスをしてしまい、お客様から大変なお叱りを受けてしまった。落ち込んだ気持ちは翌日まで引きずり、朝、杖をつきながら歩いているお爺さんの姿を見かけても、なかなか声をかけることができなかった。(誰か他の人が助けてくれるはず。)そう思っていたのだが、お爺さんを手助けする人はなかなか現れない。私は堪らなくなって、お爺さんに声をかけた。なるべくいつもの調子を心掛けて。終着駅の階段で「どうぞ、私の肩に手を......。」と、声をかけようとした時、お爺さんは、ふと立ち止まった。そして、いつもと少し違う様子で、感謝の気持ちを伝えてくれたのだ。「いつもありがとう。私はあなたのような優しい人がいてくれるから、本当に助かっているよ。」と。その言葉が、一体どれだけ私を励ましてくれたことだろう。私は、その日、お爺さんを助けて、お爺さんに助けられた。「助ける」という行為が一方的なものではなくて、「お互いに助け合っている」ということに気づいた時、私とお爺さんの間にあった寂しさは消失した。いつもより小刻みに震える私の肩。そこに置かれたお爺さんの手。それが、何よりも温かかったことを、私は今でもずっと覚えている。

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