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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第15回 ハートウォーミング賞作品・入選者

受け取る心

松本 清美(神奈川県)

 パートが終わって夜の八時過ぎ、新横浜の駅の構内で改札に向かっていると、「ガサッ」と大きな音がして驚いた。見れば車いすに乗った青年がいくつかの荷物を落としたようだった。お節介だと不快な思いをさせるかもしれない、一瞬戸惑ったが、荷物を拾うのに手間取っている姿に、思わず駆け寄った。「ありがとうございます。」笑顔で言ってくれて、ためらっていた気持ちが吹っ飛んだ。荷物は拾ったものの、これからこの荷物を持ってどうやって一人で車いすを動かすんだろう?「何かお手伝いすることありますか?」と調子に乗って口から出た。すると、「じゃあ、改札までお願いします。」遠慮することなく、爽やかにそうすんなり青年は答えた。私とは反対側の路線の改札。テキパキと道順を教えてくれるのに従って荷物を持って歩いた。その道中に、新幹線で親戚の家に行ってきたこと、お土産が増えてしまったこと、よく出かけること、等を話してくれた。果敢に外に出向く姿にも感銘を受けた。思いの外長い距離をぐんぐん腕で車いすを動かし続けている青年。彼にとっては当たり前の日常の姿に「すごいですね。」と感嘆するだけのとんちんかんな私にも終始笑顔だった。
 改札まで来ると駅員さんが代わりに対応してくれた。とっさに自分の背中にしょっていたリュックの中にエコバックがあるのを思い出した。「百均の古いのですけど、役に立つかもしれません。」エコバックを取り出すと荷物はちょうど収まり、車いすの取っ手にかけることができた。「助かります! ありがとうございます。」そう笑顔で答えてくれた。元の場所に引き返す為に私は歩き出した。手を振ると、気持ちよく手を振り返してくれた。
 私が同じ立場だったらどうだろう、ふと思った。親切に対して遠慮したり、恐縮して「すみません」を連発していたに違いない。「そこ、すみませんじゃなくて、ありがとうでしょ。ママ、すみません、言い過ぎ。」と娘に注意されたことがあった。私は受け取ることが苦手だ。恐縮してしまう。彼は「すみません」を一度も言ったりしなかった。きっともっと周りの人を信頼して、多くの人に「ありがとう」と言いながら自分の世界を広げてきたに違いない。「ありがとう」と受け取る心は与えることと同じだ。人と人はもっと素直に善意を示し、素直に善意を受け入れればいい、そう体感させてくれた。素直に与え、素直に受けて、そんな心の循環が自然にできたら、きっともっと居心地のいい暮らしになるに違いない、そう思った。

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