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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第15回 ハートウォーミング賞作品・入選者
恩送り
浅野 理恵(福島県)
「子育て」が「孤育て」なんて言われるようになって久しい。今から七年程前の娘の一ヶ月健診での出来事だった。急な出張であいにく夫は不在。私は、とても不安な気持ちで一ヶ月健診を受ける病院へ向かった。もうすぐ娘の順番がまわってくる頃、娘のオムツからあの臭いがしてきた。家でも出たのに急にうんちが出た気配がした。私はオムツを替えなくちゃと必死になるが新生児は荷物が多い。困っていると「トイレですか? 授乳室ですか?」とっさに荷物を持ってくれた見知らぬママさん。なんとかオムツ交換を終えて席へ戻った。助けてくれたママさんにお礼を言うと「自分もそうしてもらったことがあったから恩送りです。」と微笑んだ。私は「ありがとうございました。娘と二人で出掛けるのが初めてで焦ってしまいました。」と言った。するとそのママさんは「大丈夫。ちゃんとお母さんしてるじゃないですか。それにいつのまにか子どもが自分をお母さんにしてくれますから。」ふと見るとそのママさんは五歳くらいの男の子を連れていた。恩送りという言葉が素敵だと思った。その後、ママさんは颯爽と帰って行った。その凛とした背中が、とても温かくてかっこいいと心から思った。
今でも私は、娘のアレルギーの治療のためにその病院に通っている。一ヶ月健診のママさんを見るとあの日の自分を思い出す。あの日の自分と同じように必死なママさんたち。私と同じように泣き止まぬ我が子と荷物と格闘するママさんを見ると人見知りの私も勇気を出して声をかける。「あの、荷物お持ちしますよ。」戸惑うような、でもホッとしたような相手のママさんの顔を見て、声をかけて良かったと思う。それは私なりの恩送りだ。とはいえ私もまだお母さん七年生。小一の壁に激突中である。まだ大きなランドセルを背負って登校する娘にご近所さんが「いってらっしゃい。」と声をかけてくれる。交差点では地域の見守り隊のおじさんが「おはよう! 気を付けてね。」と挨拶をしてくれる。地域の子供として温かく見守ってもらえるありがたさを毎日感じる。そうして私も助けてもらいながら、今日を乗り越える。子育てはお互いの思いやりや優しさで思っていたよりずっと楽になると感じることがたくさんある。そして、人生を変えるような感動的な出来事ではないけれど、ほんの少しの助け合いの力が当事者にとっては今日や明日を乗り切る力になることを日々感じている。だからこそ小さな助け合いを続けたいと思う。これからもできるだけ見知らぬママさんやパパさんが困っていたら少し手を貸すようにしたいと思う。私たちは人の親なのだから。親は子の命を一生懸命守る。だからこそ親も健やかでいられることがとても大切だと思う。そして、これから子育てをする人たちにも少しでも子育てしやすい温かい世界だと感じてほしいと願い続けている。