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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第15回 しんくみきずな賞作品・入選者
白杖の女性と大阪のおばちゃんと
松木園 紗絵(和歌山県)
電車で帰宅途中の出来事です。その日は出張からの直帰で、いつもより早い時刻の電車に乗っていました。夕方の早い時刻とはいえ、座席は満員で、混雑している車内。出張疲れの中、自宅の最寄である終点駅に向けて走る電車に揺られていました。
あと三駅で終点駅、というところで、白杖を持つ若い女性が乗ってきました。私は邪魔にならないように出張の荷物を脇へよけたり、体位をよじったりして私なりにその女性に配慮したつもりでした。ちょっとでも女性が快適に乗車できるように、と。その時、私の背後から年配の女性が声をかけました。「白杖のお姉ちゃん、吊革ここよ、ここしっかり持つんやで。」白杖の女性はびっくりしながらも、「ありがとうございます。」とはにかみながら会釈しました。年配の女性は続けます。「おばちゃん、おせっかいかもしれへんけど、ほっとかれへんわ。あと二駅で降りるけど、できることあったらなんでも言うんやで。」すると、白杖の女性が軽く嗚咽をもらして、こう答えたのです。「おせっかいなんかじゃありません。私、いつもこの電車に乗るんですが、こんなに優しい声掛けをしてもらったのは初めてです。私、全く目が見えていなくて、みなさん気を遣ってくれたりしてるんだと思うんですけど、直接その優しさを感じられて嬉しかったです。」と。
私は、自分なりの配慮が白杖の女性には伝わっていない、自己満足であることを恥じました。同時に、できることはないか聞く、という「大阪のおばちゃん」の行動力に「温かい」を通り越して「熱い」ものを感じ、疲れていた私も活力がみなぎりました。気づいたら、私は女性に声をかけていました。「終点駅まで乗るようでしたら、私が改札まで案内しますよ。」と。
白杖の女性は私の声に振り向くと、満面の笑みで「終点まで乗ります。いつも一人なんで、今日はお願いしようかな。」と言ってくれました。もしかしたら、本当におせっかいだったかもしれません。でも、声をかけなければ、私の気持ちも伝えられなかったかもしれません。私の「形に見える思いやり」に背中を押してくれたおばちゃんは、「あんたもええ子やな。ほな、頼んどくで。」と私に手を振り、一足先に下車しました。私は、女性と「顔を見合わせて」ふふっ、と笑いながら、おばちゃんに「ありがとうございました」と一礼しました。顔を見合わせているその女性に私の姿は見えていないかもしれませんが、たしかに、お互いの心は通じ合っていました。
改札までの短い時間、私たちはたわいのない話をしながら、一緒に歩きました。改札で別れる時、女性に言われたこの言葉、そして笑顔が今でも疲れを飛ばしてくれるくらい私の胸を熱くさせてくれます。「今日が今までで一番楽しい通勤時間になりました。ありがとう。」
二人の女性からたくさんのことを教わった、私の大切な思い出です。