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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第15回 しんくみ大賞作品・入選者
声かけはエール
原口 眞帆(栃木県・中学生)
「こんにちは。」
「調子はどう?」
病院の地下、薄暗くてはじめは何だか怖いなって思っていた場所も、毎日同じ時間、同じ顔触れだから、いつの日か楽しみな場所になった。楽しみ、という表現は適切ではないかもしれないけれど、病室から出られない日々を思えば、この放射線治療病棟は唯一、私が小児病棟から出られる「お出かけ」の時間だった。
私は、小学五年生の時に脳腫瘍が見つかり手術・治療の為、約九か月入院をした。これはその入院中に出会った、名前も知らないおじさんとおばさんとの話だ。
放射線治療は、一度にたくさんの量を照射することが出来ない。毎日少しずつ照射する。そのため毎日、決められた時間に治療室に向かう。待合室には、いつものメンバーだ。
私が治療を受けていた二〇二一年は、未知のウイルスが猛威を振るっていた、コロナ禍まっただ中だった。
ソーシャルディスタンス、懐かしくも思えるこの言葉。私たち患者は免疫が落ちていたため、人との接触に人一倍気をつかい、人と距離を置かなければならない、家族にも会えない入院生活だった。
そんな中、私の「お出かけ」放射線治療。私の治療の時間は、他の子供は一人もいなくて、そこで会う患者は全員大人だった。毎日顔を合わせれば、あいさつをするようになるし、声をかけ合うようにもなる。
「おじょうちゃんが頑張っているから、おじさんも頑張るよ。」
「あと何回治療はあるの? 一緒に頑張ろうね。」
「お互いあと少しですね! 頑張りましょう。」
このやり取りで、どれだけ私の気持ちが軽くなったか。お互いエールを送ることで助け合っていた。孤独になりがちな入院生活だったけれど、コミュニケーションを取ることは、年代を超えて出来るのだ。コロナ禍で、人との関わりが希薄になりがちな日々だったからこそ感じた、人との関わりの温かさ。
助け合いって難しいことではなくて、声かけ一つで出来てしまうと思う。あの時のあいさつ、互いに送ったエールを今でもたまに思い出す。
おじさん、おばさん、私、治療を終えて、退院したよ。中学生になったよ。あの時、笑顔で声をかけてくれて勇気がわいたよ。
いつかまた会えたら、伝えたい言葉がたくさんある。話したいことがたくさんある。想いを寄せる人がいることは幸せなことだ。
私の笑顔、あいさつや声かけが、誰かへのエールになると信じて。
「こんにちは。」
「どうしたの?」
声かけの出来る人でいたい。